新小児科医のつぶやき

2018-02-16 リンドウ先輩 : あとがき

この作品は『天使と女神』のスピンオフ作品となっています。『天使と女神』がラブロマンスだったのですが、同じような路線では次回作の構想がさっぱり浮かばず、路線転換を図っています。

青春野球ドラマなんてこの世に掃いて捨てるほどあるのですが、マンガやアニメ、実写ならともかく小説にすると案外書きにくいところがあります。サッカーなんかもそうですが、テキスト・ベースでは試合のシーンの迫力の描写が難しいと言うのがあるからです。










ヒロインの竜胆薫は作品構想で最初に思いついたキャラです。一行も書いていない時点で『天下無敵の竜胆薫』ってフレーズが出来上がり、このフレーズに相応しい活躍をヒロインにどうやってさせようかをあれこれ考えたのが、この作品だったとしても良い気がします。







最大の問題は私自身の歳でして、今の高校生活の感覚がイマイチつかめません。だったら高校時代の設定なんか書くなと言われそうですが、それはそれ『書きたかった』に尽きます。細部を書くとボロが出るので誤魔化しています。

でも毎度ですが、書いていて楽しかったのが最大の収穫です。やはり趣味ですから、楽しくなくっちゃね。

BugsyBugsy 2018/02/18 21:44 何度も読み直しましたが あなたが小説で何を言いたいのかさっぱりわかりません。

いえ これは私の最高の褒め言葉です。
理解を拒む小説は読者の想像力を掻き立てます。考えても考えなくても途中から そして最後から読んでも印象が違う小説は また読んでしまいます。
最初から作者の意図が判りやい小説が危ういのは 陳腐化して飽きられて二度と読まれないからです。読まれなければ 掌中の珠というべき可愛い子供の小説は命が終わってしまいます。



自分はオペラが好きです。知らない言語でやるから 理解しようと役者の表情や舞台装置に目を凝らします。字幕が出た途端興味は半減します。
わからない以上これからも同じオペラを見続けます。

YosyanYosyan 2018/02/19 21:40 Bugsy 様

買い被り過ぎです。単に面白い話を書き綴っただけで、何かを世間に訴えようなんて代物を書いた訳じゃありません。ストーリーはシンプルで、熱血野球少女がヘッポコ野球部を甲子園に連れて行こうとするドタバタ話に過ぎません。深遠なテーマを書いたものではありません。

もっとも小説は作者がどんな目的や意図を込めようが、読者がどう思うかは自由です。作者の思惑を越えるのは読者の特権です。ある小説から「こう感じなければならない」は、高校まで試験で散々たったのでもう懲り懲りです。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20180216

2018-02-15 リンドウ先輩 : 龍すし

    「カズ君、こっちもあるんだ」
    「こりゃ、凄い。栄光のメンバーのアルバムやん。じゃ、ひょっとすると」
    「お目当てはこっちでしょ」

私はパラパラとアルバムをめくるとお目当ての写真を探し出してあげました。

    「こりゃ、目が潰れるな」
    「大げさな」
    「いや、真剣にや。だってリンドウ先輩が真ん中で、左右がシオとコトリちゃんの夢のスリーショットやんか」

準々決勝では写真係をするって逃げ回ってたんだけど、リンドウ先輩は写真部の顧問の先生どころか、校長先生から、後援会長、はたまた私の実家まで根回ししてチア・リーダーやらされました。

    「サイズ合わせが ・・・ 」

これで逃げようにも、実家まで手が回っていたもので、バッチリサイズのコスチュームが出来上がってました。既に準々決勝から動員されていたコトリちゃんには、

    「逃げようと思っても無駄。相手を誰だと思ってるのよ」

たしかに、相手は天下無敵のリンドウ先輩でした。でもね、結果としてやって良かったと思います。すっごく恥しいと思ったけど、試合が始まったら恥しいもなにもなくなっちゃいましたもの。それぐらい準決勝も決勝も感動ものだったし、ひたすら熱狂してた。

    「シオには悪いけど、三人並んでもリンドウ先輩、抜けてる気がする」
    「ううん、全然悪くないわよ。私とコトリちゃんが左右に並んでも段違いだったのよ。二人がリンドウ先輩の引き立て役にしか感じなかったもの」
    「ボクもあの時に見てたけど、実際そうやったし、みんなもそう言ってた」



    「あの人、ホントにリンドウ先輩よね」
    「そのはずなんだけど、どうにも自信がなくて ・・・ 」
    「私もそうなのよ」
    「昨日に較べても別人としか思えない」



そりゃもう、リンドウ先輩が校内を歩かれるだけで、加賀百万石の大名行列じゃないかってぐらいの追っかけが付いて回る騒ぎになったのです。もう数えきれないぐらいのリンドウ先輩のグッズが売り出され、飛ぶように売れるというか、奪い合い状態だったのも覚えてます。

    「ボクはシオを女神様と思てるし、シオより美人なんて世の中にそうそういないと思てるけど、リンドウ先輩だけはシオより綺麗だった」
    「私なんかじゃ、到底かなわないぐらい綺麗だったもの。私もあの頃のリンドウ先輩より綺麗で素敵な人を未だに見たことないよ。辛うじて近いのは最後に会った時のユッキーぐらいかな」
    「元気な頃のユッキーでも、まだ及ばない気がする。やっぱり水橋先輩とお付き合いされてから変わられたんかな」
    「とにかく、誰も文句の付けようのないスーパーカップルだったものね」



    「ところでカズ君、水橋先輩、あれからどうされたの」
    「どうもこうもないやんか。プロ行きはったやんか」

ドラフト一位だったかな。新人賞も、最多勝も取ってました。

まあ超有名店にして、人気店ですから、無理だと思いながら電話してみました。ただ、こういう店は案外当日の方がキャンセルが入って空いてたりするものです。

    「・・・ 予約というか今日行けますか」
    「申し訳ありません、本日は貸し切りになっております」

あの龍すしを土曜日に貸切にする客がいるのに驚きました。ただなんですが電話の声の主にどこかで聞き覚えがあります。水橋先輩が鮨屋をやられていて店の名前が『龍すし』なら、もしかして、もしかして ・・・

    「あのう、失礼ですが、もしかして竜胆薫さんではありませんか」

向こうもなにか感づいたようで、

    「ええ、そうですが ・・・ ひょっとしたら加納志織さん」

その後に電話の向こうでなにかやり取りがあって、

    「加納やったら OK だって。何人で来るの」
    「二人ですけど」
    「もう一人は ・・・ 」

カズ君だと言ったら、しばらく考えてから、

    「思い出した !  ユッキー・カズ坊のカズ坊やんか。もちろん OK だよ」

貸切はどうなってるんだと聞こうとしたら、来てのお楽しみにしときって。とにもかくにも水橋先輩だけではなくリンドウ先輩まで会えるとなって、ワクワクしながら龍すしにお邪魔しました。

    「いらっしゃいませ」

出迎えてくれたのは着物姿も凛々しいリンドウ先輩です。本当にお綺麗で、お変わりないというより、高校の時よりさらに魅力的になられています。

    「加納も相変わらず別嬪さんやな。そうや、後ろの男連中紹介しとくわ。だいぶ変わってもて、見る影もない奴もおるからな」

後ろの方から

    「リンドウ、それはないやろ」
    「そこのハゲが何いうんや」
    「なにを、このデブが」

こんな声も聞こえましたが、既に集まってる人達を紹介されて目が点になりました。春川さん、夏海さん、秋葉さん、冬月さん、古城君に、竜胆監督までいます。他にも乾君に、里見君もです。そしてね、リンドウ先輩が、

    「今日はね、あの時の野球部の連中が久しぶりに集まる日だったの。大丸君と、手塚君は仕事でどうしても来れなかったけど、結構集まってくれて嬉しいの。その上に女神の加納がサプライズゲストに入ってくれて最高よ。ついでみたいで悪いけどカズ坊もね」



    「水橋先輩は極楽大附属のエースとプロでも対決されましたよね」
    「交流戦の時やったかな」

そしたら夏海先輩が、

    「あん時のインタビューが傑作やった」

水橋先輩はスタンドに叩き込んでいます。水橋先輩の十打席連続敬遠は高校野球、いや野球の伝説の一つになっているのですが、試合後のインタビューで極楽大附属の元エースは、

    『十一個目の敬遠を続けとけば良かった』

このインタビューもプロ野球の名シーンの一つになっているそうです。あの時に勝負してくれていたら勝っていたしれないの悔しい思いが、どうしたって胸にこみ上げてきます。


私たちのことも聞かれましたが、カズ君が袋叩きになって冷やかされてました。まあ結果的に私とコトリちゃんを天秤にかけて、私を婚約者に選んでますからね。それはもう殺されそうな勢いで乾君なんて、

    「山本、なんでお前はそんな美味しい目にあうんや。女神様と天使に惚れられるほどの男にはオレには絶対見えんぞ。加納、お前は騙されてるんだ。目を覚ませ、悔い改めるんだ。今からでも遅くない。山本の正体は悪魔や、オレが追っ払ってやる !  エックソーシザマズ ティー オミニス イムンドゥスム スピリトゥス オムニ サタニカ ポテンティス, オムニ インクルゥシィオ ・・・ 」

里見君も

    「女神様がなんで山本なんかに。そのうえ天使を振ってやと。絶対エエ死に方せんぞ。いいや、この店から生きて出られるとは思うなよ。オレが呪ってやる、祟ってやる。エコエコ・アザラク エコエコ・ザメラク エコエコ・ケルノノス エコエコ・アラディーア ・・・ 」

ユッキーの話もしたのですが、あの氷姫がカズ君のプロポーズを受けて可愛いユッキーに変貌した話に大変驚かれ、

    「山本、お前、女神様と天使だけでは飽き足らず、氷姫まで手を出していたのか ! ・・・ にしても、あの氷姫がユッキー様ならともかく、可愛いユッキーになったのは、オレには想像するのさえ難しいんやが ・・・ 」

そんなユッキーがカズ君との束の間の幸せな時間の後に病気で亡くなったと聞いて、みんな泣いてくれました。リンドウ先輩なんてワンワン泣きながら、

    「氷姫もやっと幸せをつかんだのに、どうして、どうしてそうなっちゃうのよ ・・・ 」

私たちのことはともかく、私が知りたいのは水橋先輩の引退理由と、なぜ今は鮨屋なんだってことです。そしたら今までカウンターの向こうで、料理を出す方にどちらかと言えば専念していた水橋先輩がにこやかに笑いながら、

    「あれはな、カオルの親父さんが、弟子入りに、なかなかウンと言うてくれへんかったからやねん」

リンドウ先輩が補足してくれましたが、水橋先輩はリンドウ先輩の実家の鮨屋を継ぐと言ったらしいのです。そりゃ、周囲は大反対。プロに入ればいくらでも稼げるのは誰の目にも明らかだったからです。ただリンドウ先輩の親父さんが弟子入りを断った理由は違ってまして、

    『師匠より上手な弟子など取れない』

こういって四年間待って欲しいといったそうです。四年間で何をしたかというと、あの歳から血の滲むような修業をやったそうです。水橋先輩は時間待ちの間に生活費を稼ぎにプロに行ったとか。おいおい、どこか話がおかしいやんか。

    「オトンもあれで名人って呼ばれる腕はあったんよ。四年間、頑張った末にユウジの弟子入りを認めたんやけど、弟子入りを認めた翌日には抜かれてた」

師匠も師匠やけど、弟子も弟子ってところです。それで暖簾分けしてもらって、この店作ったんだって。資金はプロ四年間で十分すぎるほど ・・・ そりゃ稼いでるわよ。四年間で百勝してて、プロ野球界の至宝とまで呼ばれてたんだから。あのまま続けていたら、どれだけの記録を打ち立てたことか、メジャーだって行ってたかもしれません。



そんな『いきさつ』って聞いても、どう答えたらわからない状況です。なんとなくわかったのは、水橋先輩がリンドウ先輩を本当に大切にされていることです。もう御結婚されて長いはずですが、まるで新婚、下手すると初々しい恋人同士にさえ見えます。ちょっと気になって

    「今でも助っ人稼業をやられることはあるのですか」
    「あるよたまに。でもね、今はボランティアだよ」

リンドウ先輩の話によると水橋先輩は他人に頼られる時にのみ燃えるそうです。一番というか、ほとんど興味がないのが『自分のため』。依頼者が本当に困っていて、他の誰にも頼れなかった時に助っ人として立ち上がるって感じでしょうか。



    「だからね、最終的にはカネじゃないのよ。準備に惜しみなく費用を注ぎ込むから赤字になってた依頼もわりとあったのよ」

これも伝説になっている野球部への成功報酬の話をお聞きすると、水橋先輩が話に加わられて、

    「カオルからの依頼は格別やってん。話自体は加納が聞いたんでウソやないけど、オレはな、あの時に一生気持ちを燃やし続けられる相手を見つけたんや」
    「もう、ユウジったら」



    「水橋がもしリンドウを不幸にしよったら、野球部総出で〆てやるつもりだったんやけど、見せられるのはコレばっかりで、目のやり場に困るんや」

そしたらリンドウ先輩が、

    「野球部で〆るって ?  ユウジはそりゃ強いのよ。間違いなく全員返り討ちね」

そしたら夏海先輩が、

    「たしかに勝てへんわ。喧嘩でも、野球でも、なんでもな。あっというまに覚えて、あんだけ上手になるんじゃ勝負にならんわいな」

そうやってみんなで大笑いしてました。そこからはさらに盛り上がっていって、フォア・シーズンズの四人が突然バンドを組んで歌いだすんです。なんで鮨屋にギターや、キーボード、さらにドラムまであるのよってところです。

水橋先輩もギターを弾いて歌い出しました。話には何度も聞いたことがあるのですが、水橋先輩は本当になんでも出来ます。それも一流のプロの腕です。そしたら冬月先輩が私の傍に来て、

    「加納さん、お久しぶり。ますます売れっ子みたいだね」
    「冬月先輩こそ」

冬月先輩は夏の予選が終わった後にピアノに専念され、芸大を経て今はプロのピアニストです。マスコミが付けているフレーズは、

    『ピアノの貴公子、天才冬月進』



    「本当に水橋が鮨屋をやってくれて助かった。ピアノなんかやられてたら、ボクなんてピアニストとして食べて行けたかどうかわからないもの」

いくらなんでも思いましたが、

    「水橋先輩、ピアノも弾けるんですか」
    「もちろんさ。水橋、ちょっとピアノ弾いてくれないか」
    「よっしゃ」

もうなんで鮨屋にピアノが出てくるかなんて、もう気にしない事にします。そりゃ、見事な弾き語りで『ア・ソング・フォー・ユー』歌われました。いつ水橋先輩がピアノを覚えられたかですが、県大会終了後に冬月先輩が音楽室でピアノの弾いてる時に水橋先輩が来られて、

    『冬月、ちょっとピアノ見せてもらってエエか』
    『良いけど、また仕事かい』
    『いや、カオルの誕生日に ・・・ 』

その日に冬月先輩のピアノを見て覚えてしまったそうです。

    「えっ、本当にたったそれだけですか ? 」
    「水橋にとっては十分なのさ。そんなのは何度も見てるんだ」

それでも冬月先輩に較べるのはさすがに無理があると思って、

    「でも冬月先輩に較べたら ・・・ 」
    「今だけならボクの方が上だけど、水橋が仕事で請け負ったら三日で抜かれる。ゴメン、ちょっと言い過ぎた、半日もあれば余裕で置き去りにされる」

春川先輩は実家の工務店を継いでおられ、この店の工事も請け負われたそうです。その時の話をあれこれして頂いたのですが、

    「ところがなぁ、水橋の奴、全部自分でやりたがるんで困ってもたんよ。そりゃ、何やらしてもうちの職人より上手いから文句も言いにくくて」

リンドウ先輩が笑いながら、この店も一人で作りかねない勢いだったけど、内装だけで我慢してもらってるって。このハイセンスな内装を水橋先輩が一人で作り上げられたと聞いて絶句してしまいました。

    「それとなリンドウが値引き交渉するんだよ」
    「やだ春川君、ちょっと友達価格でサービスしてって言っただけじゃない」
    「オレはリンドウ相手に交渉するってのが、どんなものかを骨の髄まで経験させられたわ。あれこそが天下無敵だわ。うちの営業担当は泣いてたし、持ってこられた契約内容見て目剥いたもの」
    「春川君相手だから、そんなに無理言ってる気はなかったんだけど」

そうそう古城君と竜胆監督に、

    「惜しかったですね」

竜胆監督は古城君が三年になるまで監督を続けられたのですが、夏は結局ベスト 8 止まり。

    「やっぱり極楽大附属も、 SSU 附属も強かったわ」

古城君も

    「二年の時が SSU 附属、三年の時は極楽大附属にやられちゃいました」

クジ運としか言いようがないのですが準々決勝で当たってしまい、どちらも惜敗。春はどうだったかですが、、

    「一年の時は県大会まで進んだけど一回戦でまたもや極楽大附属に、二年の時は第三代表で近畿大会まで進んだけど一回戦で大阪の ・・・ 」
    「二十一世紀枠もアカンかったし」

チーム力は決勝に行った時より上かもしれなかったそうですが、乾君や里見君も来てちょっとしたボヤキ大会みたいになってしまいました。なにか竜胆監督と古城君、乾君、里見君には心残りがあったようです。、

    「まあ、ついて来れへんかったもんな」
    「そうですね、監督。やっぱり、リンドウさんと大丸先輩がいないと無理があったかもしれません」
    「それでも、あのチームに水橋がいたらなぁ」
    「ええ、水橋さんがいたら言うまでもないですが、リンドウさんがいるだけでも絶対だったのに。せめて大丸先輩がいただけでも勝てたかもしれないと思います」

あの決勝に進んだ年の練習は野球部でも伝説になっているそうです。しかしあれ以降は、あそこまでの練習を続けることは無理だったみたいで、あの練習を知っている古城君、乾君、里見君、手塚君、扇君、須藤君たちはかなり歯痒かったみたいです。

    「あの時の練習はホンマに辛かったけど、ボクらは幸せやったかもしれへん」
    「そうですね。大丸先輩みたいな名キャプテンと、偉大な GM のリンドウさんがおられたのですから」
    「今から思えば、あのお二人が同時におられた偶然があの練習を可能にしたんやと思う。それが二人ともおられなくなってしまったもんな」
    「そして二度と現れなかった」

こんな練習では極楽大附属や、 SSU 


そのうちに秋葉先輩が何かの話で盛り上がってきて、

    「・・・ 見たい」

そしたら春川先輩も、古城君も

    「見たい、見たい、ぜひ見たい」

こんな話が急に盛上がり、いったい何を見たいかと戸惑ってると水橋先輩が、

    「カオル、みんなああ言うてるで」
    「わかった、まかしとき」

そういって奥に入られました。冬月先輩がピアノで急にコンバット・マーチを奏で出し、皆様がわっと盛り上がったところに、

    「は〜い」



    「五番サード夏海君」

そうアナウンス風に呼ぶと、夏海先輩がバッターボックスに入る仕草をするんですが、

    「あかん、また三振や」

そうやって、さも無念そうに天を仰ぐ仕草をして大爆笑。秋葉先輩も、乾君も、冬月先輩も、春川先輩も、古城君も次々にコールされて続いていきます。それぞれにパフォーマンスをやられて、最後に水橋先輩もコールされて、

    「あちゃ、また敬遠や」

こう言ってバカ受け。でも改めてこうやって知っても、あの決勝まで進んだメンバーの素晴らしさに感動しています。とくにスーパーエースの水橋先輩と、天下無敵のリンドウ先輩の桁外れさに。こんな人々が集まってあの夏に私たち全員を熱狂させてたんだと。

そうそう記念写真を撮ろうという話になってカズ君が撮ってくれたのですが、撮れた写真を水橋先輩が面白がって、

    「こうやるんか」

私は茫然。なんと、あの光の写真をあっさり撮ってしまったのです。カズ君もあんぐりしてました。冬月先輩が仰る通り、水橋先輩が鮨屋で良かったとつくづく思いました。同業者ならエライ目にあいます。

本当に熱かった時代の空気を胸いっぱいに吸わせて頂いて、本当に爽やかな気持ちにさせて頂きました。またこの栄光のメンバーと会うことはあるのでしょうか。そうそう別れ際にリンドウ先輩が、

    「次、やる時もおいでよ。その時は小島も呼んで、チア・リーダーのそろい踏みやるで。コスチューム残ってるやろ」

リンドウ先輩が『やる』と言ったら必ずやらされそうです。でも、相当シェープアップしないと入る気がしませんが、許してくれないだろうなぁ ・・・ コトリちゃんも間違いなく引っ張り出されるよね。でも、まあいっか、頑張ってダイエットとシェープアップに励んでおこう。




    「カズ君、あの試合ってホントにあったんだよね」
    「間違いなくあった。リンドウ先輩が作り上げた奇跡の時間が ・・・ 」

BugsyBugsy 2018/02/17 16:21 Yosyan 様は随分前に「大学病院はとりわけ開業医を下に見る。」とおっしゃいました。あの時は理由がわかりませんでしたが 最近いくつか気付いたのでお話します。

 tenua track これからもよろしくと申すと今度は下を向いてそそくさと立ち去りました。彼らも本当はわかっているんです。悲惨な思いをする男が笑いながら学会に来るわけ無いですよ。




YosyanYosyan 2018/02/17 19:19 Bugsy 様



医師会の医師同士が紳士的なのは、オーナー同士の会で命令関係が無いからの気がしてます。医師会活動ってやりたくなければ、やらなくても良いのです。やらなきゃ、医師会出世双六に参加できませんが、あんな

YosyanYosyan 2018/02/17 19:21 切れちゃいましたにで続きです。

・・・ものに興味のない人には痛くも痒くもありません。

YosyanYosyan 2018/02/17 19:43 まあ、私には勤務医の序列というか席次感覚がわかりません。教授言うても一度しか会ってませんし、医局人事も 1 回だけ。 2 回目の前に辞めちゃいましたし、そもそも大学病院勤務経験がありません。以後は引く抜かれ先の病院で 1 人医長、その後はオーナー開業医: 。とにかく助手より講師が上だったっけ的な知識なもんで。

同期医師と仕事をした事さえ稀で、話をしたのさえ、ほとんど記憶にありません。 Bugsy 様には怒られるでしょうが、開業指向バリバリでしたから、学会も興味なくて、いつも留守番。つうか途中から決めうちの留守番。当時からデータ整理は好きでしたから、私が管理しているデータがどうしても必要と言うか、発表したい人がいた時のみのペーパー。

無事開業医が軌道に乗れて良かったです。

BugsyBugsy 2018/02/18 22:06 Yosyan さま

早くから成りたいポストが分かっていたあなたは自分よりも数倍幸福です。
自分は還暦をこえるまで何になりたいか分かってなかったので何をやっても不満だけでした。今の地位についてまるで不満がなく居心地が良いので ああ自分は普通のお医者で院長さんに成りたかったのだと悟った次第です。
思えば高級官僚は色んな部署に回されるから行政を大所高所から判断できます。院長はすべての部署に目を凝らして初めて自分の医療を敷衍できます。以前はあなたのコメントは分からないことがあったのですが やっと理解できるようになりました。実にありがたいことです。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20180215

2018-02-14 リンドウ先輩 : 追い出し会



    「ウチも単なる助っ人やし、仕事が済んだから辞める」





記念碑の案を見せてもらいましたが、決勝のスコアと先発ラインナップ、控え選手、監督の名前、さらに GM のリンドウさんも刻まれるとなってました。リンドウさんについては一部というか PTA 会長から異論が出たそうですが、校長先生は、

    「戦ったのは選手たちだが、今年の野球部を作り上げたのは竜胆君だ。誰よりもそれを私は知っている。その名を刻まない記念碑だったら作る意味がない。私は竜胆君単独の記念碑があっても良いぐらいに考えてる」

そこまで言い切ってリンドウさんの名前も入ることになっています。ボクもリンドウさんの名前が入らない記念碑は意味がないのは校長と同じ意見です。その肝心の六人が県予選終了後に中途退部されたら非常に都合が悪いというところです。





    「そこまで手が回らんかった」



    「気でも狂ったのか」

こう言われたものです。まあ四月の野球部の状態ではそう言われても何も言い返せませんでしたけどね。そんな新入部員の練習を横目で見ていたのですが、えらい緩いというか、ノンビリというか、ラクそうなのです。乾キャプテンと

    「甘やかしすぎちゃうんかな」

てな話をしていたのですが、ボクの中学時代からの知り合いの新入部員の薄田が半泣きになりながら、

    「おい古城、竜胆監督の練習って文字通り地獄やな。こんなん、どうやったら耐えられたんや」

乾キャプテンとボクは首を傾げながら、

    「春からやってきたのは、軽く四倍以上ありましたよ。強化合宿の時は二十倍どころの甘いものじゃなかったし」
    「そうだったよなぁ、古城。監督が就任初日にやらせた練習でも二倍ぐらいはあったもんな。練習済んだらみんなゾンビみたいだったし」
    「キャプテンはなんど成仏されましたっけ」
    「古城だって ・・・ 」






追い出し会のグランドでの最後のプログラムは紅白戦でした。普通はノックが多いのですが、

    「最後ぐらいは竜胆マジック抜きで楽しもう」





    「古城、よく頑張った。後は安心しろ」



紅軍の先発は春川さん。春川さんにもお世話になりました。春川さんは肘を痛めてらっしゃって投手として投げたのは丸久工業戦の敬遠だけでしたが、ボクには本当にあれこれ投手としてのアドバイスを頂きました。とくに肘の使い方。口癖のように、

    「投げ方が似てるから気になるんや。同じように痛めさせたら申し訳ないからな」

白軍の投手は秋葉さん。中学の時は控えの投手でもあったそうです。秋葉さんは、

    「中学の時のリュウやったらかなわへんかったけど、今やったらオレが勝つで」

春川さんもやり返して

    「ヒロシに負けるようなら大丸定食おごったるわ」



夏海さんの力強いサード、冬月さんの華麗なショートをもう一度見れて幸せです。もちろん大丸さんのセカンドもです。五月や六月頃の大丸さんを良く知っていますから、これだけで涙ものです。もうどんな強豪校のセカンドにも負けない名セカンドです。

みんな楽しそうに紅白戦を楽しんでいましたが、きっと間違いなく準決勝・決勝のあの激闘を頭に甦られていたと思います。ボクだってそうです。あの大歓声と、一投一打にすべてを燃焼させたあの時がフラッシュバックして仕方ありませんでした。


監督の隣には、笑顔で声援を送られるリンドウさんがおられます。本当に眩しいぐらい輝いて見えます。監督は大丸前キャプテンを使って猛練習のマジックをボクらに施しましたが、リンドウさんはもっと凄い魔法を使ってボクらを決勝まで導いたと思っています。

魔術師さえ手玉に取ったのがリンドウさんに間違いありません。ボクらが集まれたのは全部リンドウさんの手腕です。そうそう、あの強化合宿の時のことも一生忘れられそうにありません。あれは竜胆魔術の猛練習を重ねていたボクたちでも地獄でした。いつも、

    「本当の地獄って、こんなんやろか」
    「アホ抜かせ、ここ耐えられたら、本当の地獄なんかぬるま湯みたいなもんやろ」
    「ぬるま湯 ?  天国に感じるんちゃうか」

そういって愚痴り合っていたぐらいだからです。でもそんな練習に耐え抜けたのはリンドウさんがいたからです。野球部全員がリンドウさんを甲子園に連れて行ってあげたいと暴走したから最後までやり遂げられたのです。

不世出の大 GM にして、これから野球部がたとえ百年続こうとも、いやそんなもんじゃありません。明文館高校が百年続いても二度と並ぶ者が現われない、永遠のスーパーアイドルこそが天下無敵のリンドウ先輩です。あんな素敵な人のために戦えて本当に幸せでした。


最後に挨拶に立ったのは大丸先輩でした、

    「オレたちは竜胆薫さんを甲子園に連れて行けなかった。だがお前らは必ず行ける。その時にはリンドウさんをスタンドに呼ぶって約束してくれ」

ボクはたちは『絶対に呼ぶ』って絶叫していました。栄光のメンバーがついに届かなかった甲子園には必ずこのボクが連れて行きます。そして一緒に OB 戦やりましょう。そんな日が来るのを楽しみに待っています。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20180214

2018-02-13 リンドウ先輩 : 慰労パーティ

ここは慰労パーティ会場。勝ってれば大祝勝会の予定だったけど、負けたんで竜胆監督がささやかにやろうって。そうしていたらお好み焼き屋の大将が特大ブタ玉を三十枚ぐらい持ってきてくれて、

    「エエ試合やった、感動した。でも、あの敬遠は男のすることか ・・・ 」

そこまで言ったところで悔し泣きになってしまった。それだけでなく、強化合宿の時にお世話になった宿の女将さんまで豪勢なオードブルをゴッソリ持ってきてくれて、

    「ホンマに頑張りはった。せめてもの感激の印。それにしても、あの敬遠はちょっとあかんよね ・・・ 」

そこからはすすり泣きになってしまい、顔を伏せてしまっていた。校長もピザを二十枚ぐらい差し入れにもってきてくれたのだが、

    「私はね、高校スポーツは、ああなっちゃいかんと ・・・ 」





もう球場全体の応援はうちの方に一辺倒になっていた。極楽大附属の応援席でさえブラバンの音だけで、声は回を追うごとに小さくなっていた。途中で席を立つ者も少なくなかった。いくら母校でもそうなる気持ちはわからないでもない。



    「敬遠大好き極楽大、恥とも思わん極楽大、水橋一人に、勝てない極楽大」

これを『花さかじいさん』のメロディーに乗せてやるんだが、水橋の第四打席の時には球場中が大合唱状態だった。この後に水橋の敬遠が終わるまで延々と、

    「卑怯者、卑怯者、卑怯者」




向こうで泣き顔の夏海が土下座しそうな勢いで水橋に謝ってる。水橋敬遠策を破るには夏海のバットがカギだったんだが、 SSU 附属戦も、極楽大附属戦もヒットどころか打点すら出なかった。とくに決勝の極楽大附属戦では全部三振だったんだ。責任感の強い夏海にしたら、たまらなかったと思う。

夏海は外角は強いが内角がやや苦手なんだ。 SSU 



    「ドスン」

極楽大附属のエースも見上げた男だった。ホームベースに覆いかぶさる夏海をものともせず内角ギリギリに投げてきたんだ。あれはそう投げられるものじゃない。逃げる気なんて毛頭ない夏海の体に直撃したが、

    「ストライク」

場内はそりゃ騒然だったが、コースはストライクだったから判定はそのまま。あの物凄い球の直撃を喰らった夏海は痛いはずだが、

    「うぉお」



ボクも SSU 附属戦の二番手投手はまだ打てたけど、極楽大附属戦ではノーヒットだから、夏海のことを責める気には到底なれない。とにかく決勝は三振十七個で攻撃に関しては話にならなかった。




さっきから大丸キャプテンが泣きながらリンドウに謝ってる。みんなにも謝ってる。キャプテンの自分が、みんなをもっと、もっと引っ張っていたら甲子園に行けたはずだったのにと。後一歩が足りなかったのはすべてキャプテンの責任だって。

でも違うよ。キャプテンがどれだけ引っ張ったかは、みんなは認めてるんだ。認めてるどころか驚嘆して尊敬してるんだ。あの竜胆駿介の猛烈スパルタ・シゴキにキャプテンが率先して頑張ったから、みんなここまで来れたんだ。キャプテン抜きじゃ絶対に無理だった。



それこそ鍛錬を重ねてスタミナを養う時間がなかったんだ、これは魔術師竜胆駿介をもってしても、たった三ヶ月ぐらいじゃどうしようもなかったってところだ。一年、いやせめて半年、いやいやもう三か月あっただけでも結果は変わったかもしれない。

でも、これは間違ってもリンドウのせいじゃない。いかにリンドウだって時間まで作れないよ。こんなチームで決勝まで行けて、あの極楽大附属相手に九回まで頑張ったなんて今でも信じられないよ。野球をやれて本当に良かった。

    「お〜い、ススム。なんか考え事か」
    「いや、よく頑張ったなって」
    「うん。なんかあの地区大会の借りを返した気分がする」
    「リュウもそう感じるか」



    「冬月もお疲れさん。ところで夏海をなんとかしてくれよ。あない泣かれたら往生するわ」





    「わかった水橋。ダイスケをなんとかする」
    「悪いな」
    「それぐらい気にするな」





これに連動するが SSU 

    「監督。夏でやめられるんですか」
    「そのつもりやってんけど、やっぱり悔しくてな」
    「じゃ、続けられるのですか」
    「まあな、古城で夢を見ようかなってな」



    「ススム、あかんかったな」
    「今日はしかたないよ」
    「でも今日の水橋凄かった」
    「ヒロシもそう感じたか」



    「ヒロシ、受けててどうだった」
    「今まで一番球威がなかったけど、一番熱かった。ミットが燃え上がるんじゃないかと思ったもの」



    「冬月君、お疲れ様」
    「リンドウさんこそ、甲子園に連れて行ってやれなくて悪かった」
    「いやだ冬月君まで、もうイイのよ」



    「ボクは竜胆薫を愛してます」



トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20180213

2018-02-12 リンドウ先輩 : 決勝

相手は極楽大附属、ウチが進学の時に狙とった学校や。ここがうちの野球部の最後の関門になるとは皮肉なもんや。





試合は否応なしの投手戦になってる。まあウチの貧打線が極楽大附属のエースを打てるはずもないし。それにしても三振ばっかりで前にもあんまり飛ばへんやん。ユウジの方は立ち上がりこそいつも通りやったけど、さすがに四連投の疲れの色は隠しきれへん。



ユウジの気迫はうちのザル守備さえ締め上げてる。ここまでのザル守備がウソのようにユウジを盛り立ててくれてる。

    「カキーン」

さすがは冬月君、あれを止めるんだ。大丸君の動きもウソみたいに俊敏やん。ダブルプレイだよ。それも余裕やないの。

    「カキーン」

三塁キャンバス抜けちゃいそう。いや夏海君がもう回り込んでる。そこから踏ん張って、

    「アウト」

もうザルじゃない、鉄壁の内野やん。でもユウジは相変わらず苦しそう。またヒット打たれてる。連打されてる。

    「カキーン」



    「カキーン、カキーン」




 SSU 附属戦でユウジを温存できてたら、極楽大附属のエースより、もっと、もっと凄いピッチング出来たのに悔しい。

それでも、ユウジは踏ん張ってる。ウチのために踏ん張ってる。ウチを甲子園に連れていくためにひたすら踏ん張ってくれてる。もう少しで甲子園やん。お願いだからユウジのために誰か点を取ってあげて。お願い、誰かお願い、誰か打って。






ついにユウジも限界、イイヤとっくの昔に限界超えてる。限界超えてるけど、ウチのため、チームのために死力を振り絞ってるんや。もうウチに出来るのはこれだけや、お願いだからユウジの魂に届いて ・・・

    「ユウジ、愛してる。ウチとみんなを甲子園に連れて行って」

でも一死一・三塁、打者は四番。高校通算五十本の強打者で、こいつもプロ注目。あんな神経質にロージンバックを触るユウジを初めて見た気がする。

    「カキーン」

大飛球がライトに伸びる、伸びる、伸びる。古城君が懸命にバックしてる。でもあの位置じゃ、たとえ捕っても犠牲フライ確実やん。でも古城君、キャッチしてから物凄いバックホームやん。間に合ってお願いだから、みんなの夢が、甲子園の夢が、本塁上で土埃が上がる、

    「セーフ」



    「リンドウごめん。甲子園に連れて行けへんかった」

いいんよ、謝らんでも。甲子園には行けへんかったけど、エエ夢ありがとう。みんなありがとう。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20180212